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松山家庭裁判所大洲支部 昭和43年(家)165号 審判 1969年3月31日

申立人 岩田マツミ(仮名) 昭四三・一二・一〇生

右法定代理人親権者母 岩田孝子(仮名)

主文

本件申立は、これを却下する。

理由

一、本件申立の趣旨及びその理由

申立人は、申立人の氏「岩田」を父の氏「園田」に変更することを許可する旨の審判を求め、その理由として、申立人は昭和四三年一二月一〇日岩田孝子の子として生まれ、同年同月一九日父園田喜八より認知され、同日その旨届出がなされた。申立人は出生以来上記父母と生活をともにしているものであるが、将来小学校入学等の場合、申立人の氏が父の氏と異なることは、いろいろな面で不便である上、婚外子であることを嘲笑されるおそれもあるので、父の氏を称したい旨述べた。

二、当裁判所の認定した事実関係

岩田孝子、園田喜八の各戸籍謄本、岩田孝子、園田喜八、園田香代(第一・二回)の各審問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  申立人の父園田喜八(小学校教員、昭和五年一月八日生)は、昭和三一年八月二〇日妻香代(小学校教員、昭和二年八月一六日生)と婚姻届出をなし、爾来円満に夫婦生活を継続し、その間に長男由郎(昭和三四年五月六日生)、長女清子(昭和三六年八月八日生)の二子をもうけ、共に現在も小学校教員をしているものであること。

(二)  園田喜八は、昭和四〇年春頃愛媛県○○市○○小学校の教員をしていた岩田孝子(未婚者、昭和一五年五月二一日生)と恋愛関係に陥り、そのため孝子は同年九月一日付で同県○○郡○○小学校に転勤させられたが、上記恋愛関係が一層はげしくなつた(当時既に肉体関係があつた)。そこで昭和四一年四月一日付で、喜八は同県○○郡○○町○○小学校に、孝子は同県○○郡○○村○○小学校に、それぞれ転勤させられるに至つた。その間孝子は、香代(喜八の妻)から「不倫な関係を絶つてくれ」との申入れを受けたのに対し「あなたの方が喜八と別れて欲しい」旨答え、番代の申入れを拒否し、遂に同年四月初め頃小学校教員を退職し、前記○○小学校に赴任した喜八と同居し現在に至つているもので、その間に昭和四三年一二月一〇日申立人マツミをもうけ、喜八は同月一九日申立人を認知したこと。

(三)  孝子は、申立人を出産したが、戸籍上申立人の氏が岩田で、父喜八の氏が園田では、学齢期に達したときなどいわゆる妾の子として、ひけ目を感ずることを気にしていること及び将来喜八と法律上の婚姻をしたいため、申立人の氏を喜八の氏である園田にしておけば、いくらかでもそれに有利であると考えていることが窺われること。

(四)  喜八の妻香代は、夫喜八との間に二子があり、離婚の意思は全くなく、いつかは喜八も反省し、妻子のもとに帰つてくることを期待しており、夫婦間の子でない申立人を、園田喜八の戸籍に入れることは、二人の子供のためにも、更には将来喜八との円満な夫婦関係の継続のためにも、障碍になるので、申立人の氏の変更に伴う入籍に反対であること。

三、当裁判所の判断

(一)  本来嫡出子は、父母の氏を称し、非嫡出子は、母の氏を称するのが原則である(民法七九〇条一、二項)。そして父母が氏を異にする場合に、子がその氏を変更しようとするときは、子の申立てによつて家庭裁判所の許可をえなければならないものとされている(同法七九一条一項)。ところで父母が氏を異にする場合としては、(一)父母が離婚した場合、(二)父母の一方が死亡した後、他方が婚姻前の氏に復する場合(同法七五一条)、(三)非嫡出子で父が認知した場合、が考えられる。そして上記のとおり、これらの場合はその氏を父又は母の氏に変更するには、いずれの場合も民法七九一条一項により家庭裁判所の許可を得なければならないこととされているのであるが、上記(一)及び(二)の場合は、もともと同一戸籍にあつた父母が、離婚あるいは一方の死亡により復氏するなどにより、子と氏を異にするに至つたものであつて、これらの場合においては、氏の変更に比較的問題が少ない。

ところが、上記(三)の場合においては、考慮すべき問題が生ずる。すなわち、一夫一婦制度を前提とするわが国法の下において、戸籍は、一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製し、配偶者のない者についてあらたに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに編製することとされているのであり(戸籍法六条)、夫と妻以外の女性間に出生した婚外子を、同一戸籍に入れることは建前としては例外であり(民法七九〇条二項)、この場合は、妻その他同一戸籍関係者の意思は尊重されて然るべきものである。蓋し、非嫡出子が父の氏を称するときは、父の戸籍に入ることとされており(戸籍法一八条二項)、そして戸籍は、人の出生、婚姻、縁組、死亡等真実に合致して記載されるべきものであり、それは夫婦とその間の氏を同じくする子を単位として編製することとされている(民法七九〇条一、二項、戸籍法六条)のであるから、夫婦間の子でない婚外子の記載がなされることに対しては、現在のわが国一般の国民感情として、重大な関心をもつのが普通だからである。

(二)  本件の場合、上記認定事実のとおり、園田喜八、岩田孝子共に、喜八に妻子があることを知悉しながら不倫な関係を結び、申立人を出生したものであり、かつ生まれる子が夫婦間の子でない以上母である孝子の戸籍に入ること(民法七九〇条二項)は、これまた当然知悉していた筈である。そして、上記のとおり、戸籍は人の出生、婚姻、縁組、死亡等夫婦とその間の氏を同じくする子を単位に、真実に則して記載されるべきものである以上、申立人が岩田孝子の戸籍に記載されることは法の定めるところである。そして、これにより申立人に法律上の不利益は全く存しない。小学校入学等の際、申立人の氏が父喜八の氏と異なることに、ひけ目を感ずるとするなら、反面申立人の氏を父喜八の氏園田にした場合は、母岩田孝子と氏を異にする点で、これまたひけ目を感ずる筈である。いずれにしてもそれは感情の問題であつて、法律上の不利益ではない。

一方喜八の妻香代の反対は、上記民法七九〇条一、二項、戸籍法六条の建前どおりの主張であり、それは現在の一般国民感情に照らし、首肯しうるものといわなければならない。蓋し、就職、婚姻等の場合、戸籍謄本は一般的に必要とされており、そして、これに婚外子である申立人の記載がなされることは、現在のわが国の実情として、ある種の不快感、それに伴なう不利益感を感ずるのは自然であるといえるからである。仮りにこれを妻香代の感情の問題であるとしても、上記のとおり法律上の建前に立脚したものである以上(申立人ないしはその母孝子の感情とは同日に論じ得ない)、妻香代の主張は保護されるべきものと解する。

(三)  以上の次第で、申立人の本件申立は相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 矢代利則)

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